【編集あるある小話】「好きが売れるに変わる瞬間」

赤い彗星「シャア・アズナブル」

『機動戦士ガンダム』の敵役にして、陰の主役といってもいい、大変人気のあるキャラクターだ。

40年前、僕はそのシャアが好きで夢中でTVにかじりついていた。

そして、シャア好きが高じてガンダム本を作ったと言っても過言ではないくらいシャアの存在は大きかった。

さて、作ったガンダム本が次々ヒットしていた2009年頃、セブンイレブンさんから「ガンダムフェア向けの商品を作って欲しい」という夢のような話をいただいた。

当時後輩の作ったあるキャラクターの手帳が話題になっていたので、手帳というフォーマットに「ガンダム」を入れ込めば面白くなるんじゃないか? と考えた私は、ざっくり「ガンダム手帳」をイメージしていた。

そんな時、後輩がこう言った。

「おちさん、ガンダムってシャアがいいですよね〜」

そうだ! シャアだ!!! シャアのほうが絶対いい!!!これは売れる!!!

そう直感した僕だったが、同時に後輩に軽い嫉妬も覚えた。

(ひょっとして後輩のほうが企画力が上なんじゃないか……T^T)

ちょうどシャアが、主人公であるアムロのニュータイプ能力に嫉妬した時のように……(どんな時もシャアと自分を重ねたがる😝

とはいえ、『シャア専用手帳』はとても魅力的な企画だったので、セブンイレブンさんにも、権利元さんにもご承諾いただき、僕は制作に取りかかった。

シャアが大好きなだけに、中途半端なものは作れない。

制作期間は2ヶ月程度だったが、編集プロダクションさんと夢中になって作り上げ、自分でも満足のいくものとなった。

そうして迎えた2008年11月の金曜日。

『シャア専用手帳』は無事発売され、全国のセブンイレブンさんに並んだ。

そして、週の明けた月曜日のこと。

取次(出版業界の問屋)のトーハンさんから、営業担当者宛に電話がかかってきた。

「PHPさん!! わずか3日で20%以上消化してますよ!! 驚異的な数字です!!!!」

トーハンさんから、そんな電話をもらったのは初めてだった。

シャアが主役の真っ赤な手帳がみんなに受け入れられたんだ! 僕と同じようにシャアが好きな人がたくさんいるんだ!! と思うと、たまらなくうれしかった。

その後も『シャア手帳』は順調に売れていき、最終的には、ほぼ完売状態でフェアを終えることができた。

10年以上前の話だが、今振りかえってこう思う。

『ガンダム手帳』ではなく『シャア専用手帳』にしてよかったなと。

もし、あの時、自分のアイデア『ガンダム手帳』に固執していたら、フェアでの成功はあり得なかっただろう。

そして、僕は大切なことを学んだ。

編集とは、ぼんやりとした大きなテーマを企画にするのではなく、面白くて大切な切り口にフォーカスして掘り下げていく仕事なんだと。

子どもの頃好きだったことは、大人になってからどんな形で役に立つかわからない。好きなことがあるというのは、大人になって生きていくときに大切な栄養になる。

心からそう思う。

今日もみなさん、ありがとうございました!

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